2010年3月 展示のない?展覧会

この冬のニューヨークはここ数年で最も雪が多いのですが、それでも最近の晴れた日には陽ざしに春を感じることができます。三寒四温というにはまだ少し早いけれど、お花屋さんで桜を見かけることもあるほどです。
そしてアートの世界でも春にかけてまた新しい展覧会が色々と開催されていますが、先日雪道の中をグッゲンハイム美術館へ行ってきました。
グッゲンハイム美術館(Solomon R. Guggenheim Museum)はフランク・ロイド・ライトという建築家が設計した美術館で、とてもかわった構造をしています。建物の中は6階までの吹き抜け設計になっていて、まずはエレベーターで最上階まで上がり、クルクルと螺旋状に下りながら展示を見ていくような設計になっています。もちろん1階から同じようにクルクルと螺旋状に上がることも出来ます。展示スペースは円形でフラットではない壁が斜めに続きます。途中の階には奥にホワイトキューブのスペースもあります。
昨年フランク・ロイド・ライト自身の仕事を紹介する個展も開催されました。いま開催されている展示の1つは“Contemplating the Void: Interventions in the Guggenheim Museum”というタイトルの展覧会で、200人近くのデザイーナーや建築家、アーティスト達がグッゲンハイム美術館のスペースに想像上で様々なものを介在させ、それをドローイングなどに起したものが展示されています。スペースが独特なだけあって、作り手の数だけの想像があり、まるで色々な人の頭の中をのぞいているような楽しい展示でした。
他のフロアではアニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)のコミッションワークも展示されています。これは昨年の10月から展示されていて、3月末までの長期間の展示です。
とても面白い作品で作品の前にはこれより近づいてはいけませんというラインがあるにも関わらず多くの人がその線をこえて作品を覗き込んでいました。
その作品は大きいとはいえ、1点だけだったのですがガードマンが常に横について観客に注意し続けていました。あまりにも同じ注意が続くので、それはまるで作品とセットになったパフォーマンスのようでした。作品は洞窟の入り口のような雰囲気で、見る位置を変えるとフラットにも見えるし、近づくと永遠に続く洞窟のようにも見えるというものでした。どうしても線を超えて中を覗き込みたくなるような作品です。
そして螺旋状の部分で展示されている作品が、、、なんと何もないのです。まずエレベーターに乗る為に少し上にあがっていくと、子供達が10人前後います。そしてその中の1人の男の子が近寄ってきて「質問しても良いですか?」と言います。私と友人で「もちろん」と答えると「progressって何だと思いますか?」「Progressについて例えを出して下さい」という質問がやってきました。
そして美術館の螺旋状の展示スペースをテクテクと歩きながら聞こえにくいこともあって友人の1人が一生懸命その男の子と話をすすめました。するとしばらく上がったところに今度は10代後半くらいの男女が10人前後あつまっています。そしてその中の1人の青年に男の子は今まで話したことを伝えます。そしてそれを受けて青年はまた私の友人と話を続けます。話をしながら展示スペースをどんどん上に上がります。そしてまた少し上ったところに今度は年齢は定かではありませんが、40歳から50歳あたりに見える女性にその青年が話しかけました。
その女性はどこから来たの?とかどうしてニューヨークに来たの?どんな仕事をしているの?等の質問ばかりでしたが、なんとも不思議。そして辺りを見渡せば、みんな誰かと話をしています。そして展示作品はどこにもありません。気がつけば美術館に入って話をしながら歩いているうちに自分自身が作品となっているではないですか。
作家が意図するところがどこにあるのかはちゃんと文章などを読んでみないと分かりませんが、展覧会を見に行くだけでグッゲンハイム美術館の作品になれる!?興味深い展覧会でした。

(text・photo/澤田知子)

澤田 知子
フォトアーティスト、成安造形大学2000年卒。
現在、文化庁在外研修員としてニューヨーク在住。
第29回木村伊兵衛賞受賞。
セルフポートレートの手法で「内面と外見の関係」をテーマに作品を制作し、国内外で発表している。

  • seian
  • このページのトップへ △