2009年10月 場所の力

私は神戸の出身ですが、学生時代には大学のある滋賀県まで電車を乗り継ぎ片道3時間弱の間、本を読んだり居眠りしたり時には間に合わなかったレポートを書きながら通学していました。
そして今では海を飛び越えニューヨーク。私はマンハッタンの街を歩くとこの辺りは東京っぽいなと感じたり、ここは神戸のあの辺り、、、などとブロックが1つ違うだけで雰囲気がかわるマンハッタンから日本を思いだすこともあります。ニョーヨークは関西人が多く大阪のようだと言う人も多いのですが、もしかしたらその大阪っぽいと言われるマンハッタンという場所のもつ力が関西好きの私にニューヨークは住みやすいと思わせているのかもしれません。
場所の力というのは色々あると思いますが、展覧会ではその空間がもつ力に作品とその展示が創りだすパワーが加えられるように感じます。私は世界の色々な場所で展示をする機会をいただいていますが、全ての展示に立ち会うことも全てのオープニングパーティに出席できるわけでもありません。展示の立ち会いや出席がかなわない場合には展示プランというものを前もって制作し、そのプランを美術館やギャラリーに送ります。しかし、いくら写真や図面で場所を確認していてもコンピューターの画面で見る展示プランではその実際の場所の力を感じることはできません。今までにもプランを作り、展示に立ち会って、その場所とあわないと感じプランを変更したことも幾度とあります。ですから展示プランは送るものの、あとは代わりに展示をしてくれる方を信頼して展示を任せ、もし変更したほうが良いという場合には相談をして最終決定をします。そしてたいていの場合、その展示場所をよく知る方はどのような作品であってもどうのように展示するのが最も良いかもご存知なのです。
作品を観る時には、その作品のもつ力を感じることができますが、個展でもグループ展でも、その会場全体のもつ力を感じるという見方も私は好きです。人があまりにも多いと、その力、展示会場の雰囲気を味わうことは少々むずかしいかもしれませんが、展覧会場全体が発している力を感じることで展覧会を楽しむこともできます。
この間Asian Societyではじめて目にしたパキスタンの現代美術作品のグループ展”Hanging Fire:Contemporary Art from Pakistan”を見た後、私はとても清々しい気持ちになりました。自分の中にエネルギーが満ち、自分がアーティストであり表現する、創造するということを仕事にしていることをとても嬉しく幸せに思いました。でももちろんそういうメッセージをそれぞれの作品が発していた訳ではありません。ただ会場全体から伝わってくる力強い、どこかポジティブな雰囲気が私をそういう気持ちにさせたのだと思います。パキスタンの現代美術をまとめて見たこともなく、パキスタンの現代美術と耳にしてもどのような作品か想像がつかなかったこと、固定概念がなかったこともその会場にすっと入り込めたことに繋がっているのかな、などと一人その清々しい余韻に浸りながら寒くなってきたマンハッタンを帰途につきました。
これはかなり個人的な楽しみ方ではありますが、美術に正しい見方など存在しないのだと思います。日本にいる時にたまに「私は美術がよく分からない」というようなことをおっしゃる方に何度かお会いしたことがありますが、分からなければ美術を楽しんではいけない訳ではありません。十人十色、色々な楽しみ方があってこそ美術の厚みが増していくのではないでしょうか。展覧会や作家の意図するメッセージとは違ったとしても、作品を感じ体験したことを喜ばないアーティストはきっといません。私は今見に行きたい展覧会がいっぱい!場所の力を私流に体験して楽しみに行きたいと思います。

「写真はメトロポリタン美術館で開催中のアート・オブ・サムライ展:時間がなくて通り過ぎただけなので近いうちにゆっくり観に行くのが楽しみな展覧会の1つです。」

(text・photo/澤田知子)

澤田 知子
フォトアーティスト、成安造形大学2000年卒。
現在、文化庁在外研修員としてニューヨーク在住。
第29回木村伊兵衛賞受賞。
セルフポートレートの手法で「内面と外見の関係」をテーマに作品を制作し、国内外で発表している。

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